◆「もしもしお嬢さん」は「子豚ちゃん」?
ポーランド語は、動詞はもちろん普通名詞や固有名詞まで語尾活用します。従って、夫婦でも姓の末尾が異なります。その上、本家のポーランド人でさえ小学校時代に特訓が必要なほど発音がめちゃ難しいのです。二~三文字が連続している子音の場合は発音が更に微妙になるのですが、日本語の片仮名では同じ一文字でしか表せません。
よく使う言葉で特に注意したほうがよい言葉にproszę(プロシェン=「ちょっとすみません」とか「どうぞ」と呼びかけるときの言葉)があります。実はよく似た単語にprosię(プロシェン=幼児言葉の「子豚ちゃん」)というのがありました。気をつけないと、レストランでウエイトレスを呼ぼうとして「プロシェン・パーニ(「パーニ」は女性への敬称)」と声をかけたつもりが、「子豚女」と聞こえるかもしれません。私がこのことを知ったのは最近のことなので、既に手遅れなのかも。
韓国料理の雑炊「クッパ」を頼む場合も注意が必要です。ポーランド語では、クッパに似た発音の言葉にKupka(クプカ=幼児語の「うんち」)というのがあるらしいのです。正しく発音しないと変に思われますので、指し示す方が安全でしょう。(メニューにあればですが。)
◆タクシーをお願いできますかしら?
この国では流しのタクシーはほとんどありません。近くのトラムの駅まで歩くと、客待ちしているタクシーが集まっていますが、いちばん手っ取り早いのは電話で呼ぶことです。電話すれば来てくれるタクシーをラジオタクシーといいます。ホテルにたまっているベンツタクシーよりはるかに安く、良心的です。
現地では車を所有していなかったので、現地到着後早々にタクシーの呼び方を教わりました。「フチャゥベム・ザムワッチ・タクスフケン?(タクシーをお願いできますか?)」。あとは、英単語とごちゃ混ぜで時間と場所と自分の名前と電話番号をオペレータに伝えるだけです。以後かなりの期間、このフレーズにはお世話になりました。
タクシーの呼び方を伝授してくれたのは、語学学校で本格的なポーランド語を学んだ現地経験3年目の日本人女性でした。そして、ポーランド語にも日本語と同じような女性言葉があることを知ったのは、それからかなり後になってからのことです。もしかすると、タクシー会社に電話するたびに、奇妙な女性言葉を使う男が電話してくると思われていたかも知れませんが、すでに時遅しでした。
◆セブンミニッツタクシー
年末のある日、午後から珍しく大雪になりました。その日は夕方から会合の予定だったので、早めに行こうと、いつも使っているラジオタクシーを電話で予約しました。ダイヤル919番でつながるこのタクシーは「セブンミニッツタクシー」と呼んで、信頼しておりました。コールセンターのオペレーターがいつも「セブンミニッツ、オーケー?」と言い、たいがい5~10分で来てくれるからです。
ところが、この日は20分待っても来ません。雪のために渋滞しているのでしょうか。しびれをきらしてその場から携帯電話で再度コールしました。しかし、それから10分しても来ません。そこでまた電話するのですが、先ほど電話した者だなどと複雑なことは言えません。そういうことが3回ほど続き、すでに最初のコールから約1時間が経とうとしています。そろそろ会の始まる時刻です。寒い屋外で長時間立っていましたので、生理的にも限界です。業を煮やして自室に戻り、別のタクシー会社(ELEタクシー)に電話しました。しばらくして降りてみると、既にELEタクシーは向かいのマンションの玄関先でちゃんと待っています。しかし、こちらのマンションの玄関前にも、3~4台の919タクシーがずらーっと並んでいるのでした。
年が明けて、ほとぼりが冷めたと思った頃に、もういいだろうと使い慣れた919タクシーに電話しましたが、何度ダイヤルしてもつながりません。これはきっとタクシー会社のブラックリストに載ってしまったにちがいない・・・。
後日分かったことですが、実は1月1日から電話番号が変更され、919から9191に変わっていただけなのでした。やれやれ。
◆トワレタ
見知らぬ土地で困ることの一つにトイレがあります。まず、どのあたりにあるかがわかりません。必要こそ学習の促進剤。こちらで比較的早く覚えた言葉は、「グジェ イエスト トワレタ?(トイレはどこですか)」でした。公園の公衆トイレの多くは、景観に配慮してのことだと思いますが、半地下構造になっています。男性は▽、女性は○で表示されており、有料です。
町の中では公衆トイレはほとんど見つかりません。で、どうしてもというときは、手近のレストランかBAR(バル)に駆け込むのですが、それだけではやはり気が引けますので、珈琲か紅茶を頼みます。その結果、一日に何度も店に駆け込むはめになります。
ところで、レストランのトイレによっては、高すぎて困るものがあります。値段ではありません。足の長さが違うのでしょうが、なにもあんなに高くする必要はないのに。最初に遭遇したときには、思わず踏み台になるものを探しておりました。でも、子どもはどうするんだろう。
◆どっちでもよい
“Dzień dobry” は、朝・昼・夕いつでも使える便利なあいさつ言葉です。読み方としては「ジェン ドブリ」「ジェン ダブリ」「ヂェィン ドブルィ」などいろいろ表記されていますが、いずれにしても正確な発音を表しているわけではありません。外国語を片仮名で表記することの限界を認識しておられないむきは、「ダブリじゃなくてドブリなんだ」などと決めつけたがるようです。思い込みであっても、「これはこうでないといけない」と“信じる”方が心の安定のためにはよいのかもしれませんが、決めつけを他人に強要する事態もあり得ますので、あえてここで明らかにしておきます。所詮、片仮名書きです。前述のような例では、厳密にはどれも正しいとは言えないのです。
ただし、明らかに日本語の片仮名表記が本来の発音から大きく逸脱している例も見かけます。特に地名や人名のような固有名詞の中には、片仮名書きにした場合にもとの発音からあまりにかけ離れた形になってしまう例があります。代表的なものが、「Ń」や「Ł」など、ラテン系の文字です。日本では見かけない特殊なアルファベットですので、NやLをそのまま片仮名表記するともとの発音から大きく逸脱してしまいます。“Gdańsk”(グダニスク)を「グダンスク」としたり、“Łazienki”(ワジェンキ)を「ラジェンキ」としたりする例です。この手の誤記が有名な旅行会社の案内書などに見られるのはとても残念なことです。